LTV(ライフタイムバリュー)の罠|「業界のリーダーが語る、これからのマーケティング」|【WACUL社】セッションレポート
オプトは、2023年11月1日(水)に、業界を代表するリーダーをお招きしたオフラインイベント「業界のリーダーが語る、これからのマーケティング〜Cookieレスの最新動向とその先のLTV戦略〜」を開催しました。「Cookieレス」の最新動向や企業に求められる対応、そして今注目が高まっている「LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)戦略」をテーマに、四つのセッションを行いました。
本記事は、株式会社WACUL 代表取締役の垣内勇威氏にご登壇いただいた、セッション4「LTV(ライフタイムバリュー)の罠」の講演内容をもとに作成しています。同セッションでは、LTVの向上を目指した施策のなから、失敗に陥りやすい例の紹介と、LTV向上のボトルネックの見付け方とその解消方法をお伝えします。
オプトのメールマガジンでは、デジタルマーケティングに役立つ事例をはじめ、セミナー開催情報、お役立ち資料、最新メディア情報などをお届けします。
目次[非表示]
- 1.LTVとは
- 2.ボトルネックの解消方法
- 2.1.Meet(出会う)の障壁を解消する方法
- 2.2.Attract(引き付ける)の障壁を解消する方法
- 2.3.Sense(検知する)の障壁を解消する方法
- 2.4.Trade(商売する)の障壁を解消する方法
- 3.まとめ
LTVとは
株式会社WACULで代表を務めている垣内と申します。当社は、デジタルマーケティング全般のコンサルティングを行っています。そして、コンサルティングから蓄積した知見を世の中に提供するために、書籍の執筆なども行っています。
今回は、「LTVの罠」というテーマで私からお話しさせていただきます。
LTVは「顧客生涯価値」と表現され、多くの企業でさまざまな指標として活用されます。しかし、LTVに関する知見は世の中に多くありませんでした。
LTVには、企業視点と顧客視点の二つがあります。私のアカウントを用いてX(旧Twitter)で「LTVを企業視点と顧客視点のどちらで使っているか」についてアンケートを取ったところ、66%は「企業が一人の顧客から得られる生涯価値」として使っており、11%は「顧客が一つの会社から得られる生涯価値」として使っているとの回答がありました。
LTVの向上を目指すためには、企業視点と顧客視点の両方が重要だと考えています。
LTV向上を目指す施策の失敗例
LTVを伸ばすためのノウハウは、世の中に多く存在していないと感じる一方で、企業のデジタルマーケティングを支援するコンサルタントは、「LTV向上」というテーマで提案書をよく作ります。
ここからは、私自身にとっても耳の痛い話になりますが、LTVの向上を目指した施策のなかから、失敗に陥りやすい例を紹介します。失敗に陥りやすい施策を大別すると、次の四つになります。
以下では、それぞれの施策がなぜ失敗に陥りやすいのかを紹介します。
会員プログラム
会員プログラムは、プログラムを提供する企業側にとっては、分かりやすい施策です。ユーザーの購入金額や購入頻度などから、ゴールド会員、シルバー会員、ブロンズ会員のようなランク分けを行います。
しかし、ユーザー自身がゴールド会員になったところで、それほど嬉しさを感じない場合があります。もちろん、ユーザー自身が大好きなサービスのゴールド会員になった場合は、嬉しいと感じてもらえると思います。一方で、特にメーカーに対してこだわりを持たずに、家電などの高額な買い物をした際に、そのメーカーから「あなたはゴールド会員です」といわれても、ユーザーはそれほど嬉しくありません。つまり、会員プログラム施策だけでは、LTVを向上につなげるのは難しいと考えられます。
会員アプリ
会員アプリの開発も、多くの企業が取り組んでいる施策の一つです。しかし、一人のユーザーが一日のうちに開くアプリは、多くても10個程度でしょう。その10個のなかに、自社のアプリが入り込むことは、決して容易ではありません。ユーザーがブランドやメーカーの相当なファンでない限り、難しいでしょう。
サブスク
本来、サブスクリプションモデルは、常にアップデートするソフトウェアのような商材において活用されるものでした。商材が定期的にアップデートされるため、ユーザーにとっても定期購入することに価値があります。このように企業とユーザーの双方にとって価値がある場合でなければ、サブスクリプションモデルを成功させるのは難しいでしょう。
「定期購入してほしい」といった、企業側の視点だけで考えられたサブスクリプション施策では、必要なときに都度購入をしたいと考えているユーザーにとっては、デメリットも多くなってしまいます。
メディア
自社独自のメディア制作は、企業が取り組みやすい施策の一つです。ユーザーにコンテンツを読んでもらうことで、LTVの向上を目指す高施策です。
しかし、企業として公開するコンテンツには、広報や経営陣の確認が必要となり、制限も多いため、ユーザーにとっては面白味のないものになってしまうことも少なくありません。さらに、コンテンツ自体に訴求力がない場合は、広告を配信して集客につなげることもあるため、企業側に運用のコストが余計にかかってしまう場合があります。
このように、企業視点のみでLTVの向上を目指そうとすると、多くの施策が失敗に陥ってしまいます。
ボトルネック
先ほど、失敗に陥りやすい例を紹介しましたが、企業は、大きな施策に取り組むことで、LTVの向上を目指すケースが多いと感じます。
しかし、重要なのは、カスタマージャーニーにおける障壁を一つずつ改善することです。実際に、カスタマージャーニーを細かく分析すると、一つの小さな障壁が原因となって購入や入会につながらないケースがあります。
LTVの向上を目指すためには、全体の最適化をいきなり目指すのではなく、局所的でもいいのでボトルネックを一つずつ解消していくことが重要だと考えています。
ボトルネックの解消方法
LTV向上の障壁となるボトルネックは、次の図の「MAST」で見付けましょう。
「Meet(出会う)」は、LTVのスタートに関するボトルネックです。ユーザーが実際に自社の商材を使用していたとしても、ユーザーがその商材を提供する企業について認識していなければ、LTVは向上しません。
「Attract(引き付ける)」は、商材の魅力をユーザーに伝えられていないというボトルネックです。魅力がゼロの商材はほとんどありませんが、魅力をユーザーに伝えられていない商材は多いと考えています。
「Sense(検知する)」は、ユーザーの状態を定期的に検知できていないというボトルネックです。LTVは「顧客生涯価値」と訳されます。つまり、中長期的にユーザーと接点を持ち、ユーザーの状態を定期的に把握することで初めてLTVを向上することができます。しかし、ユーザーと一度の接点を持つだけにとどまる企業や商材が多いと考えています。
「Trade(商売する)」は、満足度の高いユーザーに対して、積極的な案内ができていないというボトルネックです。満足度の高いユーザーは、営業の側面が強い案内であっても商材を購入してくれる場合があります。これができていないがゆえにLTVを向上できていないというケースも多いと考えています。
LTVの向上を妨げるボトルネックの多くは、この四つに集客されます。ここからは、四つのボトルネックを解消する方法を紹介します。
Meet(出会う)の障壁を解消する方法
Meetのボトルネックを解消した事例として、リッツカールトンの事例を紹介します。
ホテル業界の顧客調査をしたところ、リッツカールトンに何度も宿泊をされている30代の女性がいらっしゃいました。莫大な資産を有するわけではなく、収入も一般的な方でした。
その女性がはじめてリッツカールトンに来られたのは、友人の結婚式だったようです。そこで「なんて素敵な空間なのだろう」と感銘を受けて、その後、特別な日に友人とリッツカールトンでお茶をするようになりました。
こうした利用を積み重ねた後に、リッツカールトンに宿泊するようになり、定期的に宿泊するまでになったとのことでした。
このように、お茶をする場としての活用を積み重ねて、あるタイミングで宿泊するという流れは、Meetのボトルネック解消の参考になると考えています。重要なのは、コンバージョンの障壁を低くして、まずは試してもらうことです。高すぎるコンバージョンの障壁は、機会損失につながってしまいます。
コンバージョンの障壁を低くする施策として、例えば、安価で商材を体験できるライト商材や、キャンペーンなどを通じて商材を認識をしているライト会員を作り、購入を検討されているお客さまから、接点を作っていくことがおすすめです。
以上のように、コンバージョンの障壁を低くして、1年ないし2年かけてお客さまにアプローチしていく視点を持つと、実施できる施策も増えます。
Attract(引き付ける)の障壁を解消する方法
Attractのボトルネックが生じる原因は、はじめに、商材に魅力がある場合と魅力がない場合に分けられます。そのうえで、商材の魅力が非対面で伝わっていない場合と、対面で伝わっていない場合に分かれます。
非対面で商材の魅力が伝わっていない場合、セルフサービス(※1)のチャネルゆえに大半の魅力が伝わっていないケースが多いと感じます。このような場合は、カスタマージャーニーに沿って、商材の魅力を伝えられるように動線を再設計するとよいでしょう。
対面で商材の魅力が伝わっていない場合、接客方法が企業視点になっているケースが多いと感じます。接客のプロ意識が高すぎて、顧客体験が置き去りにされていることもあるため、注意していただきたいと思います。このような場合は、企業視点の常識を疑い、顧客視点でコミュニケーションを図るとよいでしょう。
※1セルフサービス:ユーザーが情報に直接アクセスして、商材の担当者のサポートを求めずにソリューションを見付ける方法
Sense(検知する)の障壁を解消する方法
Senceがボトルネックになりやすいケースは次の通りです。
これらを解消するためには、ユーザーと定期的に接触し、情報を得て、販売や、クレームが発生する前に対処できるタイミングを見逃さないことが大切です。例えば、「サザエさん」に出てくる、三河屋のご用聞きのサブちゃんは、醤油や酒を売るためにサザエさんと定期的に接触しています。
ただし、一人の人間が一人の顧客を常に訪問できるような高単価な商材は多くないため、定期的な接触にはMA(Marketing Automation:マーケティングの自動化)ツールなどを活用するのがおすすめです。
Trade(商売する)の障壁を解消する方法
Tradeがボトルネックになりやすいケースは次の通りです。
商材に対する満足度の高い顧客は、企業側からアクションせずとも商材を購入してくれます。しかし、これらの顧客を放置してしまい、結果としてLTVを損なうケースがあります。
例えば、生命保険を販売するための営業は、営業をする側も抵抗を感じているケースが多いです。しかし、生命保険に対する満足度が高いユーザーに打ち合わせを打診すると、ほとんどのケースで「OK」と言ってくれます。それどころか、家族のなかに保険未加入の方がいる場合は、紹介までしてくれます。
また、商材の購入を検討している新規顧客への営業にも、同様のケースがあります。世の中には、営業パーソンの仕事を減らす動きもありますが、人間にしかできない営業もあるため、機会を逃さずに積極的に営業することが重要だと考えています。
まとめ
本記事では、LTVの向上を目指す施策のなかから、失敗に陥りやすい例を紹介しました。多くの失敗は、企業視点のみの施策でLTVを向上させようとすることにより起こります。
垣内氏が紹介する「MAST」を活用し、LTV向上の障壁となるボトルネックを見付け、一つずつ解消していくことをおすすめします。
オプトのメールマガジンでは、デジタルマーケティングに役立つ事例をはじめ、セミナー開催情報、お役立ち資料、最新メディア情報などをお届けします。