
非指名キャンペーンの改善事例:GA4データによる「学習補強」というアプローチ
はじめに
インターネット接続サービスの領域では、サービス名を含まない検索(「回線 比較」など)から多くの見込み客が訪れます。いわゆる非指名の検索需要です。どの語句から成果が出るのか見えにくく、広告費の効率が上がらない課題が続くこともあります。
今回の事例では、検索語句を絞り込む「精査の強化」ではなく、GA4(Google アナリティクス 4:Webサイトの行動データを計測・分析するツール)のデータを広告の自動入札の学習(機械学習による入札最適化)の材料に加えることで、成果を生む語句へ学習を集中させるアプローチを取りました。
検証では、2025年10月に立ち上げた新規キャンペーンの導入初期(10/22〜10/31)と翌月(11/1〜11/16)を比べ、GA4基準のCPA(Cost Per Acquisition:コンバージョン1件あたりの広告費)が約62%改善し、コンバージョン(以下、CV)件数は6件から20件へ約3.3倍に増加しました。なぜ精査だけでは届かなかったのか、どのような構造で成果につながったのかを、運用プロセスに沿って解説します。
目次[非表示]
背景:非指名キャンペーンの構造的な課題
改善対象は、インターネット接続サービスの非指名キャンペーン(ブランド名を含まない語句への検索広告)です。お客さまと共有していた目標CPAを上回る状態が続き、早急な改善が求められていました。
構造的な課題は、検索語句(ユーザーが検索エンジンに入力した言葉)1つにつきCVが1件程度しか発生せず、成果を牽引する主要な語句が存在しない状態――社内では「1クエリ1CV」と呼んでいる状況――でした。成果が出た語句でも、1語句あたりのCVは平均で約1.2件にとどまります。機械学習が使う学習データが語句ごとに不足し、確度の低いユーザーやCVに結びつかない語句(以下、CV無語句。CVが発生した語句は以下、CV有語句)への配信が増えていたと考えられます。
従来の運用は、キーワード精査(成果データから配信語句を絞り込む作業)、クエリ精査、品詞精査(語句を品詞の傾向から分類し、性質を判断する作業)が中心でしたが、改善幅は小さく頭打ちでした。CV無語句の広告費は全体の約39%を占めるものの、そのうち約95%はCV有語句と重複しており、単純な除外設定(配信対象から外す操作)では成果を生む配信まで削ってしまいます。
以上の構造から、精査の強化ではなく「学習側を補強する」転換が必要だと判断しました。
なぜCPAが上昇したのか:3つの原因
CPA上昇の要因は、次の3点に整理しました。
1つ目は、偶発的に成果が出た語句のキーワード登録です。
2024年に偶然CVが発生した語句をキーワード(広告表示の対象として設定する語句)化した結果、2025年に配信量は伸びたものの定常的な獲得にはつながらず、CPAが上昇傾向になりました。
2つ目は、語句ごとの学習データ不足です。
成果が出る語句を中心に強化したものの、語句あたりのCV数が少なく、確度(成果の確からしさ)の低いユーザーへ配信が広がりました。
3つ目は、入札の過剰な強化によるCPC(クリック単価:広告が1回クリックされるごとにかかる費用)の上昇です。
表示シェア(表示機会のうち自社広告が表示された割合)は上がりましたが、CVの増加との相関は見られず、費用だけが膨らむ結果となりました。
打ち手:3つの対策と「学習補強」への転換
3つの原因に対し、原因1から順に対応する3つの対策を講じました。本記事では、中心となる対策2(GA4データの活用)の検証結果を紹介します。
対策1:キーワード登録フローの見直し。 期間とCV数にしきい値(基準となる値)を設け、定常的に成果が出る語句だけをキーワード登録し、完全一致(検索語句とキーワードが完全に一致した場合のみ広告を表示する方式)で配信します。
対策2:学習データの強化(本事例の核心)。 語句単位では月あたりのCV数が少なく学習が不十分なため、GA4のデータを学習用コンバージョン(自動入札の学習に使う成果データ)へ追加。広告プラットフォーム側のCV(媒体CV)と組み合わせて、学習の精度と立ち上がりの速さを高めることを狙いました。
対策3:上限CPC(1回のクリックに支払う上限額)の設定。 予測が難しいオークションでも、過剰なクリック単価を防ぎます。
ここからは、本記事の中心である対策2(GA4データの活用)の運用面を説明します。
なお、GA4データの広告プラットフォームへの連携にあたっては、プライバシーポリシーでの説明と同意取得の状況、および各媒体の利用規約・データ利用ポリシーへの適合を、お客さまとあわせて確認しています。
運用面では、既存キャンペーンと並行してGA4データで学習する新規キャンペーンを立ち上げ、不定期に獲得が発生する語句を切り出して配信。ボリュームが安定した段階で既存キャンペーンへ反映する方針としました。
なお、新規キャンペーンではGA4データの追加と同時に上限CPC(対策3)も設定しているため、成果の改善にはその影響も含まれる可能性があります。
検証結果:GA4を学習に加えた後の変化
新規キャンペーンの実績を、導入初期(10/22〜10/31の10日間)と翌月(11/1〜11/16の16日間)で比較しました。
導入初期と比較した翌月の実績では、GA4基準のCPAが約62%改善し、GA4基準のCV件数は6件から20件へ約3.3倍に増加しました。広告プラットフォーム基準のCPAも約47%改善しています。
導入直後はCPAが高めに推移しましたが、学習データの蓄積に時間がかかる「立ち上がり期」を経て、より安定的で効率的な獲得へ移行したものと見ています。
※本比較は同一キャンペーン内の「導入初期」と「翌月(半月分)」の比較であり、季節要因や市況の影響を完全に排除したものではありません。件数が少ないため、傾向を示す参考値としてご覧ください。数値は自社集計による相対値です。
既存キャンペーンとの関係を検証
新規キャンペーン立ち上げ時の定番の懸念は、既存キャンペーンの成果を奪ってしまうことです。食い合い(異なるキャンペーンが同じユーザーを取り合い、成果が分散すること)の有無を検証しました。
検証の結果、CVが発生した検索語句のうち、既存キャンペーンの主要広告グループ(2025年10月)と新規キャンペーン(同11月)の間で重複していた割合は、CV件数ベースで約13%でした。一方、広告費ベースでは約29%が重複していました。新規キャンペーンは既存の成果を大きく奪うことなく、別のニーズから追加のCVを獲得していたと考えられますが、同じ語句への配信が重なる部分では費用が分散していました。
重複して配信された語句では新規側のCPAが安価で、学習の集中が機能したことがうかがえます。一方、同一キーワードの並行運用では予算が分散し、既存側の効率が下がる場面も確認しました。今後は既存キャンペーンを新規の運用へ統合し、予算分散を解消する方針です。
まとめ
本事例からの示唆は3つです。
- CV無語句の「単純な除外」だけでは改善が難しく、成果データの重複構造を理解したうえでの「学習補強」が必要であること。
- GA4のデータを学習用コンバージョンへ加えたことで学習に使えるデータが増え、CPAの改善(約62%)と件数の拡大(約3.3倍)が同時に見られたこと(上限CPCの併用を含む結果で、効果の切り分けは今後の課題)。
- 新規キャンペーンが既存の成果を大きく奪わず、別ニーズの獲得として増分に貢献した一方、同じ語句への並行配信では予算が分散するため、統合を前提とした設計が重要であること。
広告運用で成果が頭打ちになったとき、はじめに選ばれがちなのは「語句の精査」です。本事例が示したのは、データを活用して機械学習自体を強化するという別のアプローチでした。
自社の運用に当てはめる際は、次の3点を運用担当者や代理店に確認してみてください。
• 成果データ(コンバージョン)が、語句ごとに十分な件数たまっているか
• GA4のコンバージョンを広告の学習に使える状態か(計測設定、同意取得、各媒体の利用規約への適合を含む)
• 同じ語句に複数のキャンペーンで配信が重なっていないか
複雑なコスト構造のキャンペーンほど、「学習補強」の考え方は今後も意味を持つと考えています。
Q&A
Q1:精査だけではなぜ改善が難しかったのでしょうか。
A:CV無語句が広告費の約39%を占めるものの、そのうち約95%は成果のある語句と重複していたためです。単純な除外では、成果を生む配信まで削ってしまう構造でした。
Q2:GA4のデータを学習に加えると何が変わるのでしょうか。
A:不足しがちな学習データ量を補い、機械学習の精度と立ち上がりの速さの向上が期待できます。本事例では、導入初期と翌月を比べて、GA4基準のCPAが約62%改善し、CV件数は6件から20件(約3.3倍)に増えました(自社集計・同一キャンペーン内の比較)。
Q3:既存キャンペーンの成果が奪われることはないのでしょうか。
A:本事例の検証では、CV獲得語句の重複率は件数ベースで約13%(広告費ベースでは約29%)にとどまり、別ニーズからの増分獲得が確認されました。ただし、重複する語句では予算が分散するため、並行運用中は注意が必要です。
Q4:どのようなキャンペーンで有効なのでしょうか。
A:検索語句1つあたりのCV数が少なく学習データが不足しがちな、非指名(ブランド名を含まない)キャンペーンで有効に働くケースが多いと考えています。
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