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専門家に聞く、企業SNSアカウント運用におけるAI活用の事例と今後の展望


昨今、ChatGPT(※1)やGemini(※2)をはじめとする生成AIや対話型AIが台頭しています。こうしたなかで、SNSを活用したマーケティングにAIを活用する動きも増えてきました。


※1 米OpenAI社が開発し、2022年11月に初期版を公開した人工知能チャットボット
※2 Geminiとは、Googleが開発したマルチモーダル生成AIモデルです。テキスト、画像、音声、動画を入力として受け取り、テキストと画像を生成できます。


本記事では、SNS×AIの分野において、特許技術を活用した支援を拡大しているAIQ株式会社の今井氏に、弊社のSNSアカウントの運用コンサルタントである瀬戸口が取材させていただいた内容を紹介します。


※スピーカー情報※


AIQ株式会社の紹介


瀬戸口:はじめに、自己紹介をお願いいたします。


今井氏:AIQ株式会社の今井と申します。私は、AIQのStrategic Partnership部に部長として所属しており、エンタープライズ領域のお客さまに対する総合的な支援を担当しています。


AIQ株式会社 今井 大貴 氏



株式会社オプト SNSマーケティング部 瀬戸口 諒


当社は、「私の『本当の好き』が、あなたの『価値』に変わる社会をつくる。」というPurposeを掲げ、ソーシャルメディアの情報を独自AIで解析し、人の「本当の好き」から新しい「価値」を創出するソーシャルメディアマーケティングサービスを提供しています。


プロファイリングAI


瀬戸口:では、貴社におけるAI活用サービスについてご紹介をお願いいたします。


今井氏:当社はAIの領域で、次の3つの特許を取得しています。


プロファイリングAI(登録番号:6569183)
販売力可視化AI(登録番号:7304587)
潜在顧客発掘AI(登録番号:7304587、7475590)



当社は、これらの3つの技術を活用して「INSIDE TECH」を実現したいと考えています。INSIDE TECHとは、ヒトの表面的な情報だけでなく見えない領域(INSIDE)も含めたあらゆる情報を可視化し「ヒトを知る」ための技術を指します。


このうちの1つが「プロファイリングAI」であり、オンライン上の画像や動画、テキストからユーザーの嗜好(しこう)性を予測する技術です。


プロファイリングAIは、SNSに投稿される内容から投稿者の属性や興味関心を可視化するような場合にも活用できます。実際にインフルエンサーのフォロワーを可視化すると、面白い発見があります。


次の画像は、Instagramで活動している「コスメ系インフルエンサー」と「アパレル系インフルエンサー」の実際の投稿例です。



この2人のうち、美容好きの20代女性に共感される可能性が高いのはどちらか知るためにプロファイリングAIを活用します。
その結果、次の図のように、右の「アパレル系インフルエンサー」の方がフォロワーに占める女性の割合が高く、美容に関連するハッシュタグが多いと分かります。


外から見ただけだと「コスメ系インフルエンサー」が良いように思われますが、実態は違う、というのが可視化により事前に把握できます。



瀬戸口:これらの情報が可視化できると、クライアントとマーケティング施策について相談する際に、データに基づいて適切なインフルエンサーを提案できますね。貴社は、SNS×AIの分野でさまざまな支援をされていると思いますが、多数のSNSがあるなかで、AIはどのように活用されていくと考えていますか?


今井氏:当社としては、媒体ごとにAIを活用するのではなく、さまざまなSNSに散っている情報を統合および分析するためにAIを活用していこうと考えています。複数の媒体を横断的に分析できた方が、個人をより深く知ることができるためです。


瀬戸口:AIを活用した工数削減などの話題も多くなっていますが、貴社は、マーケティングリサーチの領域でAIを使っていくのですね。


今井氏:これまでリサーチ会社では、アンケートパネルを活用した調査や過去のデータに基づく調査が多かったと思います。しかし、それらの調査で集められる声は、必ずしも自社の商品を購入しているお客さまの声ではありません。このような課題意識もあり、お客さまが日常的に活用しているSNSで調査ができるとよいと考えています。


SNSで調査を実施すると、従来の方法では把握できなかったお客さまのインサイトまで把握できる場合もあります。SNSによってユーザーの使い方は異なるため、その点に関する調整を行ったうえでAIを活用すると、お客さまに対する理解が深まります。


AIQ社の2つのツール


今井氏:ここまで紹介したような特許技術を用いて、当社は次の2つのツールを提供しています。



・Moribus

・Digital Customer


以下では、これらのツールについて簡単に紹介します。


Moribus


Moribusは、次の2つの機能を持ったソーシャルメディアマーケティングプラットフォームです。



1つ目の機能として、Moribusでは、InstagramのビッグデータをAIが解析し、最新のトレンドをレコメンドする機能を提供しています。また、自社に関連する投稿やコメントの管理、投稿の効果測定にも対応しています。


2つ目の機能として、ソーシャルメディア上での口コミやUGC(ユーザー生成コンテンツ)を効果的に管理し、インフルエンサーなどの個人の力を最大限に活用する機能を提供しています。


Digital Customer


「Digital Customer」は、SNS上に実在する顧客の情報をAIに学習させて、顧客ごとの個性を持ったAIを生成するサービスです。AIの生成には、プロファイリングAIとChatGPTを活用します。


※参照元:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000178.000037916.html


例えば、「Digital Customer」の活用により、製品開発プロセスの変革を実現できます。製品開発のプロセスにおいて、従来から使用されているアンケートデータやマーケティングサーベイデータに加えて、実在顧客のSNS情報から生成したデジタルカスタマーを活用して、商品コンセプトに関する仮説の精度向上や開発プロセスの効率化を実現できます。


AIQ社の強み


SNS投稿代行で効果改善
企業(ブランド)アカウント⇔ショップスタッフアカウント⇔インフルエンサーアカウント」の設計事例


今井氏:当社のプロファイリングAIを活用することで、複数のSNSを横断的に分析し、ユーザーのインサイトを取得できます。これらのデータを活用し、人の感覚ではなく、データに基づいてSNS戦略を設計したり、広告用クリエイティブを制作したりすることができます。


例として、アパレル業界のお客さまのSNS運用を支援させていただく場合、当社では次の3つのアカウントを作成することがございます。


・ブランドアカウント
・ショップスタッフアカウント
・インフルエンサーアカウント


そのうえで、上記3つのアカウントを使い分けながら、ユーザーのインサイトを活用して制作したクリエイティブを配信します。また、クリエイティブの二次利用も行っており、効果的なアセットを横展開する支援も得意としています。


このように、当社は複数のSNSを横断して取得したデータをもとに、SNSの戦略設計から広告運用支援までできる点を強みとしています。


AIQ社の事例


瀬戸口:ここからは、貴社が株式会社パルさまに対して行った支援についてお聞かせいただけますでしょうか。


今井氏:まず、株式会社パルさまのご紹介をいたします。パルさまは、50年の業歴を有し、50以上のアパレルブランドを全国展開する会社です。販売スタッフはSNS上で提供するサービスの強化に取り組んでいまして、所属している5,000人以上の販売スタッフのうちの約1,800人がSNSで投稿を行っています。これらの販売スタッフのフォロワーを合計すると、600万人から700万人になります。


当社は、これらの1,800人の販売スタッフのInstagramの活用状況管理し、販売スタッフの価値の最大化を目指した支援をさせていただきました。


事業に関するパルさまの次の3つの観点を紹介しながら、当社が行った支援についてお伝えします。


・多様性に合わせた共感の醸成が可能
・ステークホルダーの活動アセットの活用
・WIN-WIN-WINでみんなハッピーに


多様性に合わせた共感の醸成が可能


瀬戸口:「多様性に合わせた共感の醸成が可能」というのはどういうことでしょうか。


今井氏:パルさまでは、販売スタッフ一人ひとりがインフルエンサーとしても活動しています。1,800人以上の販売スタッフがそれぞれInstagramのアカウントを持ち、自身の身長や肌質、骨格に合わせて似合う洋服の情報などを発信しています。


例えば、小柄な販売スタッフは「小柄な体型でも似合うコーデ」を発信します。次の図は、身長154cmの販売スタッフの特徴と、フォロワーの特徴を当社のプロファイリングAIで分析したものです。



このように、販売スタッフが用いるハッシュタグとフォロワーが用いるハッシュタグには「低身長コーデ」「大人カジュアル」などの共通の特徴があります。


次の図の販売スタッフは、二児のママで、「産後でも似合うママコーデ」を発信します。



分析をすると、こちらの販売スタッフの用いるハッシュタグとフォロワーが用いるハッシュタグにも「ダイエット」「ママコーデ」「大人かわいい」などの共通点があることが分かります。


このようにして、販売スタッフの特徴に合致したフォロワーを増やしていくと、投稿やライブ配信で紹介したアパレル商品が売れるようになります。


当社は、プロファイリングAIなどの技術を用いて、個々の販売スタッフのSNSアカウントを分析し、一人ひとりのスタッフがより売上を立てられるようになる支援を行っています。


瀬戸口:お話を聞いて、アカウントを運用するうえで大切なのは、アカウント所有者自身のインサイトを知ることだと感じました。そうすることでフォロワーの知りたい情報を把握することができるため、SNSの発信にもいい影響がでそうですね。


ステークホルダーの活動アセットの活用


今井:当社は、販売スタッフが作ったクリエイティブをはじめとするアセットの横展開も支援しています。


例えば、SNSに投稿されたクリエイティブを広告配信に活用したり、ECサイトに画像として埋め込んだりする例があります。



販売スタッフが創るクリエイティブにはユーザーライクなものが多く、適切な形でクリエイティブを評価したうえで配信すると効果に結び付きます。


当社では、次のように1,800人の販売スタッフのモニタリングも実施しています。



販売スタッフの行動を可視化したうえで、適切なタイミングでクリエイティブを二次利用します。これらの取り組みを、Metaで検証したところ、次のような成果がありました。



WIN-WIN-WINでみんなハッピーに


今井氏:このような取り組みができると、皆がWIN-WINになります。


販売スタッフは自らの個性を活かして情報を発信し、共感したお客さまに商品を購入してもらえるようになります。お客さまは、納得したうえで商品を購入できるようになります。


納得して商品を購入してくれるお客さまは、利益率が高い場合が多くなると考えています。そのため、企業はその利益をもとに販売スタッフに再び投資できるようになります。



このように当社の支援をもとに、皆が幸せになれる好循環を実現できたらと考えています。


一方、販売スタッフが発信力を強めると、フォロワーも増えます。その分、フォロワーとのコミュニケーションも増えるため、労務リソースに課題が生じます。当社は、スタッフの情報をもとに生成したAIスタッフで、この課題を解決しています。


当社はプロファイリングAIを使って、SNSの投稿をもとに販売スタッフ本人の個性を可視化できます。この個性を大規模言語モデル(LLM)と組み合わせて学習を進めると、本人から見ても「自分だ」と思えるくらいリアルなAIスタッフを作ることができます。



当初、このAIスタッフの取り組みは、広告を活用せずにリリースしました。その結果、短い期間で約5,000セッションの会話が行われました。


フォロワー数が十数万人いるような販売スタッフは、フォロワーからダイレクトメッセージをもらっても、リソースの問題で返信できない場合が多くあります。しかし、スタッフAIは24時間365日いつでもメッセージを返してくれるので、フォロワーとしても会話の心理的なハードルが下がったようです。


この春の取り組みでは、AIスタッフが2万円の鞄を販売しました。販売スタッフもフォロワーもAIに対して非常に前向きだった点は、当社としても驚きを得た部分です。


瀬戸口:とても面白い取り組みですね。ちなみに、AIスタッフはどのような形でメッセージに返信してくれるのでしょうか?


今井氏:時期によってパターンを変えていましたが、現在は、テキストに加えて、関連するInstagramの投稿を返信しています。現在もこちらのページから、AIスタッフと会話できます。


このように、オンラインでのコミュニケーションはAIを活用して、販売スタッフはオフラインでの接客に時間を活用できるようなサポートも行っています。


SNS×AIについての今後の展望



瀬戸口:ここまで貴社のユニークなお取り組みを紹介していただき、ありがとうございました。今後、SNSの分野において、AIはどのように発展していくとお考えでしょうか?


今井氏:個人的な見解ですが、まず、生成AIが創るクリエイティブが増えると考えています。また、クリエイティブに対するお客さまの捉え方も変わるはずです。


具体的には、人間が投稿するクリエイティブと、AIが自動で投稿するクリエイティブを分けて捉えるようになると思います。メディアが生成AIを使って、投稿を見分けるアルゴリズムを生み出す可能性もあります。


瀬戸口:私は、AIの発展によりクリエイターの存在価値がなくなるのではないかという不安を持っています。AIで対応できる領域と、人による対応が必要な領域はどのように分けられると思いますか?


今井氏:取り組みに対する人の姿勢や感情はAIには真似できないものなので、それらがより重要視されるようになるのではないでしょうか。また、フランスのSNSアプリ「BeReal.」(※1)のように、生成AIに対するアンチテーゼとなり得るメディアにユーザーが集まるような動きも起こるかもしれません。


※1 2020年に公開されたフランスのSNSアプリ。1日1回ランダムな時間に通知が届いてから、2分間のみ写真が投稿できる仕組み。


このように、さまざまな動きが予想されますが、私はAIに仕事を奪われるのではなく、AIを活用することで、人がより高次な仕事に時間を割けるようになると考えています。そのため、SNSの分野でAIがどのように発展していくのか、今後も見守っていきたいと思います。



まとめ


昨今ChatGPTやGeminiなどの出現により、デジタルマーケティングにおいてもさまざまなシーンでのSNSのAI活用が見られています。


そのなかで、SNS×AIの分野で、先頭を走っているAIQ株式会社の今井様に弊社瀬戸口が伺いました。


SNS投稿のAI活用はもちろんですが、AIによるSNSアカウントの分析、SNSアカウントの投稿を元にしたAIチャットボットなど、SNSの新しい活用方法も見いだせたのではないでしょうか。


弊社では、AIQ社と密に意見交換をさせて頂いており、このような最新のSNSアカウント運用について連携させていただいております。



AIQ社やオプトのSNSアカウント運用に少しでもご興味のある方は、サービスページ、および、メルマガ登録、問い合わせなどよろしくお願いします。


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